電気事業法改正2020(その1) 広域機関

 この通常国会には電気事業法改正案が提出されます。法案は電気事業法(附則を含む)、FIT法、NITE法、JOGMEC法の改正案(いわゆる「束ね法案」)となります。今回から電気事業法改正案の内容をみていきたいと思います。

 まず広域的運営推進機関(以下、広域機関)の機能強化です。経産省は第一に会社間連系線を強化し、供給区域をまたいだ再エネの利用拡大と発電市場の競争環境をさらに進めること、第二に2018年の北海道ブラックアウト、2019年の千葉県長期停電を踏まえ、電力供給のレジリエンス強化を実現することを目指しており、このために広域機関の機能強化を行います。

 第一に広域機関の業務として、法改正前の業務規程・送配電業務指針に加えて、「広域系統整備計画」の策定業務を追加し、会社間連系線とこれに付随する地内系統の計画策定機能を加えます。経産大臣にこの計画に対する変更命令権限をあたえ、全国の広域系統の設備計画に関わる権限を盤石にすることを目論んでいます。

 その際、卸電力取引所(以下、JEPX)に留保されている値差収益(前日市場の市場分断によるエリア間値差が発生した際に、決済の結果、JEPXにもたらされる超過収益)を広域機関に移管します。これを原資として連系線等強化のための投資資金を一部、送配電事業者に交付することで、広域系統整備計画に資金的裏付けをもたせるわけです。

 第二に広域機関を経由して、一般送配電事業者が共同で災害時連携計画を届出ることが義務付けられます。その前提として、一般送配電事業者には資産管理の一環として、電気工作物の設置時期・耐用年数等を明記した台帳作成、老朽設備の計画的更新が義務付けられます。

 注目されるのは災害連携計画に設備仕様の統一化が定められることでしょう。電力会社間の利害がからむため、このような統一化が容易に進むとは考えにくく、メーカー・施工業者の関心が高いところです。

 これらの内容はおおむね予想範囲内といえます。ここでは2つの点を指摘しておきます。

 まずJEPXの値差収益は市場参加者、つまり発電者と小売事業者が負担したものであり、広域系統の設備資金に充当するのは本来、不合理だということです。経産省がこのような無理筋を強行する理由は2つです。全国大の再エネ電源活用と電源競争により電力業界再々編を実現しようという強い意向と、連系線投資による商機拡大を期待する経団連参加企業の思惑です。本来、JEPX値差収益は取引手数料の軽減などにあてるべきですが、このような真っ当な議論はありませんでした。

 次に広域機関の権限強化に一般送配電事業者が全く抵抗しなかったことも重要です。電力需要が低迷する中で、老朽設備の更新投資を実現することが彼らの大きな関心事となっているため、むしろ法による設備更新義務の受入れを歓迎している雰囲気すらあります。

このように今回の広域機関の権限強化は一般送配電事業者の弱体化・自己決定能力の低下と表裏一体の関係にあるのです。