電力システム改革 なぜ失敗したのか?

電力の供給不安が高まっています。今冬の供給予備率はマイナス予想(対H1=厳冬高需要)となり、供給不足は継続する見込みです。

なぜ供給不足が発生したのでしょうか? 電力システム改革の失敗が最大の理由です。多くの方々が業界紙や専門誌で失敗の理由を説明してます。いずれも正しいのですが、本質的な理由は以下の3つです。

システム改革失敗の3つの理由

1 市場の分割

システム改革で電力市場は大きく3つの市場に分けられました。kW(容量)市場、ΔkW(調整力)市場、kWh(電力量)市場の3つです。kW市場では設備能力(出力)、ΔkW市場では調整力(出力の変化)、kWh市場では電力量が取引されます。

売手(つまり発電所)からみると、発電所を建設するには、3市場全て(またはkW市場とkWh市場の2つ)で取引が成立することが必要条件です。全ての市場で取引が成立しなければ、発電できないからです。

発電所建設の投資判断をする際、アプリオリ(事前)に3市場全ての約定見通しを得ることはできません。発電所という1つの設備を、3つの機能(設備能力、調整力、電力量)に分割し、それぞれに独立した市場を創設・運営してしまったのです。この結果、電源投資を阻害するシステムを作り上げたのです。

2 時間の分割

さらに悪いことに、各市場の約定時間の単位が細分化されてます。kW(容量)市場は1年単位、ΔkW(調整力)市場は3時間単位、kWh(電力量)市場は30分単位に分割されてます。

このため、kW市場を例にとると、ある年度は約定しても、次年度以降の約定の保障は一切ない、といった現象が発生します。ΔkW市場、kWh市場も同様で、ある特定の時間帯は約定するが、他の時間帯は約定せず、という困った事態が起きてます。

売手(発電所)からみると、これほど不安定な取引はないでしょう。投資回収、出力調整、燃料調達の前提となる約定のタイムスパン(時間単位)がいたずらに細分化されました。発電所の稼働が不安定になるシステムを作ってしまったのです。

3 設備利用率の軽視

分割された3つの市場のコストには密接な相関関係があります。とくにkW(容量)市場のコストとkWh(電力量)市場のコストには、逆相関があります。たとえば原子力や石炭火力は投資額がかさむためkWコストは高いが、燃料価格が安いためkWhコストは低い、といった具合です。

残念なことに、kW市場とkWh市場を分割したため、電力システムは両者の相関を断ち切ってしまいました。本来ならば発電所の燃料に応じて、あらかじめ設備利用率の目安を設定することで、コスト最小化を実現するべきでした。

現在の電力システムはkW市場とkWh市場を分割し、両者の関連(つまり設備利用率)を考慮してません。分割した市場で全ての燃料種別を一律に価格設定する着想に基本的に無理があったわけです。

供給不安は解消されるのか?

当面、このような状態は継続すると考えざるを得ません。

原子力発電所の再稼働には、規制面、社会面、司法面のハードルが高く、なお相当の時間がかかると思われます。火力発電の建設には、電力システムの抜本的な見直しが要件ですが、官僚はこれを認めません。

さらに脱炭素に向けたカーボンプライシング・キャップアンドトレードの政策見通しがきわめて不透明で投資判断を鈍らせます。

このような状態で原子力発電所の再稼働や電源建設が進むと考えてはいけません。電力システム改革の失敗が少なくとも3~4年は大きな影響を与え続けると理解すべきです。