千葉県停電 なぜ長期化するのか?(2)

前稿では台風15号による千葉県停電が長期化した理由について、一般的な観点から記載しました。ここでは東電固有の理由について類推してみたいと思います。

台風被害予測の不備

電力会社の配電設備(電柱・配電線・柱上変圧器等)の設置場所と周辺樹木の実態は事前に把握できます。これらの与件に対し、台風の進路・中心気圧による風速予測、実績を適用することにより、台風被害(特に今回問題となっている倒木被害)は高い精度をもって予測することができます。このシステムは「台風配電設備被害予測システム」と呼ばれ、2018年度の西日本の台風災害予測に効果をあげました。特に山間部の倒木被害予想に強く、推定被害と実績被害が近似していることが実証されています。これによる被害予測に基づいて、人員を被災地域に重点的に事前配置することで復旧時間を短縮することができます。残念ながら東電PGは過去、台風被害を受けた経験があまりないこともあり、このシステムを採用していません。

東電PGの組織変更

東京電力の組織体制は従来、本社-支店-支社の3層体制となっていました。しかし2015年7月以降、本社-支社の2層体制に合理化されています(加えて2018年7月より支社数も半減しています)。千葉県では、以前は千葉支店が県内の設備状況を管理しており、各支社から優秀な人材が集まっていたわけです。支店を廃止したのはコストダウンのためですが、この結果、千葉県全体の土地勘を持って被災状況に応じた資機材調達・人員配置を差配する部署がなくなったのは事実です。「土地勘」は極めて重要です。今回は本社がロジスティクスを考えているわけですが、支店不在の弱さが復旧活動に影を落としている可能性があります。

経営層と配電部

今回の停電でメディア対応を行っている塩川技監は配電の実務経験がありません。さる6月まで江連常務取締役(配電出身)が配電担当役員として活躍していましたが、現在、役員に同部出身者はいないのが実状です。金子社長(変電出身)はかねてより配電部への不信感を隠さないことで知られていたようです。この背景には配電部による2016年の電力全面自由化時のスマートメーター取付見通しが甘く、作業が大幅に遅延し混乱を招いたことがあるとされています。現在、東京電力PG役員は配電出身者不在の状況でこの未曾有の危機に対応しているわけです。

全国の電力会社から千葉県に集結した配電保守の社員からは、すでに東電PGの差配のまずさに苦情が発生しています。配電設備は送変電と異なり、面的な広がりを有し、多くの人員・設備を必要とするため、その被災対応には独特のノウハウを要するのですが、現在の東電PGはその適性に疑問符を突き付けられているように感じます。