東京電力ホールディングス(以下、HD)の取締役人事が電力業界の注目を集めています。東電パワーグリッド(以下、PG)の金子禎則社長は2019年6月の株主総会後、親会社であるHDの取締役を辞任する予定となっています。
東電フュエル&パワーの守屋誠二社長、エナジーパートナーの秋本展秀社長はHDの取締役を兼任する予定です。唯一、PGの社長だけが親会社の取締役から外れることとなるのです。
監視等委員会との攻防
2020年4月以降の送配電分離後も電力ネットワーク(以下、NW)の独占は継続します。このため、その中立性が強く求められており、法的にも規制が継続するのは周知の通りです。金子氏の処遇をめぐって、電力ガス取引監視等委員会(以下、監視等委)から強い要請があったようです。NWの社長がHD取締役を兼任するのは行為規制・情報遮断の観点から問題がある、というのが監視等委の判断なのです。
取締役人事に関わることでもあり、東電側はかなり抵抗したようです。しかし監視等委の一部の委員は、「かりに金子氏がHDの取締役を兼任するならば、取締役会の案件に応じて同氏は退席すべきで、さらにその証左として取締役会の様子をビデオ撮影することが必要」などと主張したため、東電側も断念した模様です。
電力各社への波及と東北電力の深慮遠謀
法的中立性が求められるのは東電だけではありません。他の電力会社も同様です。現時点でほとんどの電力会社が送配電分割準備会社のトップに本社取締役を据えています。これらの方々は2020年4月に分離される送配電会社の社長就任を前提としているようです。しかし東電の前例を見る限り、送配電のトップが親会社の取締役を兼任することには監視等委が強く干渉すると考えられ、これらの方々は2020年4月か6月の株主総会の段階で、送配電会社の役員か、親会社の役員か、いずれかの選択を迫られる可能性が極めて高いのです。
賢明な判断をされたのが東北電力です。送配電分割準備会社(東北電力ネットワーク)の社長に法務系の二階堂宏樹氏を充て、監視等委の判断を見極めた上で2020年4月以降の人事を判断しよう、という考えがうかがわれます。
それにしても、このような役員人事の分離は今後の電力経営に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。兼任が許されないならば、送配電会社トップから親会社である電力取締役、ひいてはトップへの昇進の道も閉ざされることにならないでしょうか。
北海道電力は6月の株主総会で送配電事業分割準備会社の藤井裕氏が社長に就任します。今後はこのような人事にも監視等委から異見が出てくる、そんな予感さえ感じてしまうのです。