日本卸電力取引所(JEPX)は2019年5月22日に、間接送電権のオークションを開始しました。この制度は内容と背景が複雑で、電力業界でも正しく理解されている方はごく少数です。経産省、広域機関、JEPX…。どの資料を読んでも分かりやすい説明はありません。本日は「間接送電権とはなにか」にテーマを絞り、できるだけ簡単にお話したいと思います。
エリア間値差とは
間接送電権を理解するには「エリア間値差」のメカニズムを理解することが不可欠です。数値例を挙げてみてみましょう。連系線でつながれたXエリア、Yエリアがあるとします。Xは安価な電源立地が進んでいる地域(Yはその逆)とします。2つのエリア全体でオークションを行った結果、以下のようになったとします。
200714ERT間接送電権 - 数値例1 (1)
Xエリアは電源が安いので供給>需要(Yエリアは逆)となっています。この結果、X→Yへ連系線潮流が20発生します。X・Y間の連系線容量が20以上あれば、上記の結果に問題はありません。しかし連系線容量が足りなかったらどうなるのでしょうか?
200714ERT間接送電権 - 数値例2
連系線容量が10の場合、X→Y向きの潮流が制約されるため、Xエリアの超過供給(=Yエリアの超過需要)は10になります。この結果、この数値例ではXエリアの供給は60に減少(Yエリアの供給は40に増加)するとしています。
さて、数値例1では連系線容量が十分なため、X・Yエリア間の市場分断は発生せず、双方の卸価格は一致します。しかし数値例2は違います。連系線容量が不足しているため、2つのエリアで市場分断が発生し、異なる卸価格となります。
Xエリアの価格<Yエリアの価格
Xエリアでは、より安価な電源のみが約定される一方、Yエリアでは高い電源が約定します。この結果、電源が安価なXエリアの価格はYエリアより低くなります。このように連系線制約により発生するエリア間の価格差を「エリア間値差」と呼んでいます。
市場参加者の超過支払いとJEPXの超過利潤
このようにエリア間値差は「連系線容量に制約がある場合に発生する」もので、それ自体は経済合理性が十分あるものです。しかし取引所全体では意外な副作用が発生します。市場参加者の超過払いが発生するのです。これも間接送電権の理解に不可欠な概念ですので、数値例で説明します。
200714ERT間接送電権 - 数値例3
ここではXエリアで9円、Yエリアで11円としました。安価なXエリアで超過供給、高価なYエリアで超過需要が発生しているため、市場参加者の受取り・支払いを合計すると、支払い>受取り(ここでは20の超過払い)となってしまうのです。
この20は「エリア間値差*連系線容量(=2円*10)」に数理的に一致します。すなわち、Xエリアで供給(=発電)、Yエリアで需要(=小売)を行い、連系線を利用する事業者が連系線通過量当たり2円の超過支払いを余儀なくされていると理解できます。
この2円を誰が受け取っているのでしょうか?
現在の制度では市場運営者であるJEPXのものになります。奇妙な話ですが連系線容量の制約によってJEPXが超過利潤を得る仕組みとなっているのです。
間接送電権とは
いよいよ間接送電権です。間接送電権は超過支払い分をJEPXに帰属させず、市場原理を活用して事業者に再配分すべき、との考え方から産まれたものです。具体的にはエリア間値差によって発生する超過払い(さきほどの2円)を市場参加者が事前のオークションを通じて予め確定しておく権利を指します。
200714ERT間接送電権 - 数値例4
オークションでは、より高値の買い注文を行った事業者から優先的に落札されます。約定量累計が連系線容量に達したところで締め切られ、最後の事業者(この数値例では事業者C)の指し値が全体の約定価格となります。落札者は卸電力取引でエリア間値差を0.9円で決済することができます。つまり間接送電権を落札することにより(落札しなかった場合と比べて)1.1円(=2円-0.9円)を得ることができるわけです。
以上が間接送電権の概要です。
今回はできるだけ簡単にまとめました。複雑になるので省略しましたが、間接送電権のオークションには細かい制度的な課題が多々みられます。新しい制度として定着するかどうか、まだまだ不透明といえそうです。