電力カルテルの背景
11月25日に、中部電力、中国電力、九州電力の3社に独禁法の不当な取引制限があったとして、公正取引委員会が巨額の課徴金を課すと報じられました。その後、課徴金は合計1,000億円に達したと報じられています。これは独禁法史上最高額の課徴金です。
関西電力は3社にカルテルを持ち掛けたものの、公正取引委員会に本事案を自ら報告したため、課徴金を免れると報じられています。
競争が激しい西日本60Hz地域
周知のように電力の周波数は東日本で50Hz、西日本で60Hzで供給されています。東西間には周波数変換所がありますが、容量に限りがあり、電力間競争は東西それぞれの地域内に限定されます。西日本には中部、北陸、関西、中国、四国、九州の6社があり、東日本と比べ競争が激しい環境にあります。しかもこれら6社は電源構成が大きく異なります。特に関西電力・九州電力は原子力ウエイトが、中部電力・中国電力は火力ウエイトが高いという違いがあり、コスト構造が異なるのです。
原子力に有利な会計制度
じつは、原子力は決して低コストの電源ではありません。原子燃料サイクル(具体的には核燃料の再処理、発電所の廃炉、放射性廃棄物の処分)に巨額のコストが発生し、むしろ高コスト電源です。しかし現在の電気事業会計制度では、これらのコストが十分に計上されてないため、経理上、原子力発電は安価になります。このため、原子力ウエイトの高い関西電力、九州電力は競争力が高い、ということになります。
中国電力の苦悩と原子力発電
歴史的に中国電力は、関西電力・九州電力に挟まれ、競争力の維持に腐心してきました。島根原子力の稼働が遅れる一方で、2016年以降、関西・九州の原子力発電所が再稼働を開始したため、相当な危機感をもっていたと想像されます。一方、将来の原子燃料サイクルのコスト負担を懸念する関西電力なども、競争激化による不毛な消耗戦を恐れていたと考えられます。関西電力が持ち掛けたと報じられている談合の背景にはこのようなそれぞれの思惑があったのではないでしょうか。
カルテルは刑事告発に至るのか?
今後、課徴金を課せられる予定の3社に対して公正取引委員会の意見聴取が行われます。その後、排除措置命令・課徴金納付命令が出されるのですが、問題はこの後です。現在の独禁法には公正取引委員会による刑事告発制度があります。この制度は法人・個人の双方を対象としており、電力会社のみならず、役員クラスが告発される可能性があります。加えて課徴金納付に対する株主代表訴訟もありえます。「不当な取引制限」という独禁法上、悪質性の高い事案だけに、これらのリスクは決して無視できません。
確執は深まるのか?
今回の事案がリーニエンシー制度により発覚したのであれば、業界内の確執が今後、深まる可能性があります。東日本大震災で歴史的転換を迎えた本業界は新たな局面を迎えたと考えられます。