欧州委員会は2月2日、EUタクソノミーの原子力・天然ガスに関するスクリーニング基準を採択しました。この後、欧州理事会・欧州議会の承認を経て、法制化される運びとなります。
EUタクソノミーは断片的に報じられることが多く、気候変動をめぐる全体像における位置づけを少し理解しにくいテーマです。また実務的な影響が具体的にどの部分に発生するのか、把握しにくい問題です。本日はEUタクソノミーについて、簡潔に説明します。
気候変動を巡る金融セクターの動き
EUタクソノミーの理解には、温暖化をめぐる金融セクターの動向を知る必要があります。地球温暖化を回避するために、産業セクターのみならず、金融セクターも積極的な役割を果たすべき、との考え方がヨーロッパを中心に強まっているのは周知の通りです。
金融セクターが主体的な資金配分を通じて、温暖化を抑制・緩和する経済活動に貢献しようと考えているわけです(このような動きの背景には、最近の自然災害増加により、金融セクター、特に保険業界が経済的損失を被っている実態があります)。
大きな課題は「温暖化を抑制する経済活動」をどのように定義づけるのか、ということです。
これは決して容易な作業ではありません。
実際、現在のところサステナブル投資、ESG銘柄などと銘打たれているさまざまな投融資活動は、その対象の選択基準がかなり曖昧で、温暖化防止の実効性に疑義が持たれているのです。
EUタクソノミーとは温暖化防止を評価するための基準の1つ
このような状況に対して、1つの回答を与えようという試みがEUタクソノミーです。
今回のスクリーニング基準は、再生可能エネルギーに加え、排出量270g/kWh以下のガス発電、廃炉・廃棄物処理施設と資金を備えた原子力発電を、タクソノミーの基準を満たす電源と定義づけ、これらの活動に対する資金調達を優遇しようとしているわけです。
情報開示の必要性
EU内の大企業は情報開示の一環として、これら基準をどの程度満たしているかを明らかにすることを求められます。また金融セクターも自身の資産のうち、タクソノミー基準を満たしている資産ウエイトを明らかにすることを要請されます。
このような非財務情報の開示を義務付けることで、相対的に環境負荷の小さい経済活動に対する資金供給を促進しようとしているのです。
このようにEUタクソノミーとは、
1 温暖化の抑制・緩和を促進する資金配分を実現するため、
2 そのような経済活動の判断基準を定め、
3 その基準の達成状況の開示を産業界・金融界に義務付ける
ものなのです。
報道等では判断基準の部分が過度に強調されており、またエネルギー業界の専門家が金融法制に必ずしも詳しくないことから、EUタクソノミーを理解しにくいものにしているように感じます。
EUタクソノミーは、温暖化を防止するためにEUが考えた基準であり、それ以上のものではありません。現在、国際的にも同様の基準作りが進んでいます。日本の企業はEUの基準に振り回されることなく、これら新しい基準作りに自ら関わっていくことが重要です。