新たな概念としての排出係数
経産省と環境省は令和6年11月に「電気事業者ごとの未調整排出係数、基礎排出係数及び調整後排出係数の算出及び公表について」と称する局長通達を発しました。
これらの係数は、いずれも温室効果ガスの排出係数ですが、それぞれの名称が分かりにくい概念です。3つの係数がどのような係数なのか、簡単に解説します。
なぜ複数の係数が存在するのか?
温室効果ガスの排出係数に、なぜ3つの概念が混在するのか?この理由を抑えておきましょう。これは非化石の環境価値が全て証書化されており、電力の購入者と証書の購入者が一致しないため、その調整が必要な点にあります。加えて非化石価値も国内の電源に由来するものと、その他に由来するものとが混在しており、今回の新しい係数ではこれらの区別を行っています。
この調整を行った結果、3つの概念の係数が出てきたわけです。この点さえ抑えておけば、排出係数を理解したと言って良いでしょう。以下で少し詳しく見ていきます。
1 未調整排出係数=現実の電力の排出係数
=発電に伴う排出量÷販売電力量
未調整排出係数は、電力会社が購入した(生の)電力量が現実に排出している温室効果ガスの排出係数です。この係数は計算がシンプルだというメリットがあります。
反面、例えばFIT電気もゼロ排出と算定しています。FIT電気の環境価値は電気料金を通じて主として一般消費者が負担しており、その電気(のみ)を購入している電力会社の排出係数をゼロと算定するのは不適切、との考えがあります。このため以下の異なる排出係数の概念が出てきます。
2 基礎排出係数=電力の環境価値の負担を勘案した排出係数
=(発電に伴う排出量+FIT・非FIT調整排出量-非化石証書相当排出量(グリーン電力証書・再エネ電力由来Jクレジット含む))÷販売電力量
基礎排出係数は電力会社が負担した非化石価値を反映した温室効果ガスの排出係数です。
電力会社がFIT電気や非FIT非化石電気を購入しても、その環境価値に相当する証書を購入しているとは限りません。このため基礎排出係数の算定では、これら非化石電気に相当する排出量(全国平均の排出係数を電力量に掛けて算出します)をいったん加算し、その後、電力会社が購入した非化石証書相当の排出量を減算します。
※このときグリーン電力証書と再エネ電力由来Jクレジットが含まれているのは、GXリーグ及び今後、導入される排出量取引市場での扱いを先取りしたものです(詳細は省略します)。
3 調整後排出係数
=(2の排出量-再エネ由来電力以外のJクレジット・JCMクレジット)÷販売電力量
調整後排出係数は基礎排出係数で算定される排出量からさらに電力に由来しないJクレジットおよびJCMクレジット(海外由来の環境価値と考えてください)を減算して算定したものです。
※国内の電力取引に関する限り、基礎排出係数で十分なのですが、電力以外の環境価値(例えば森林植林など)や海外での環境価値をさらに控除することで、係数の削減を促すものです。この背景にはクレジット市場を活性化させたい官僚の意向が働いていると想像されます。
今後、電力会社が顧客に訴求する排出係数は基礎排出係数と調整後排出係数が基本となります。複雑な概念なのですが、上記の区別を正しく理解することが必要となります。