LNG長期契約の必要性は供給不安が契機
LNG長期契約の確保が課題となっています。きっかけは2020年末から2021年始にかけてのLNG玉不足に伴う卸価格の高騰です。厳冬に加えて他電源の停止などが重なり、LNG貯蔵量が極端に低下、卸電力価格は250円/kWhにまで高騰しました。慌ててLNGのスポット調達を行ったのですが、アジア向けスポット価格も日本の電力価格につられる形で高騰しました。当時は単なる価格上昇に留まらず、電力供給不安を発生させる可能性すらあったのです。
この時の経験もあり、経産省は、十分な量のLNGを産ガス国からの長期契約により、予め確保することの重要性が、身に沁みて理解できたはずです。今般の電力システム改革の検証においても、安定供給に必要なLNGを確保するための方策が大きなテーマとなっています。
現時点では、小売電気事業者が卸電力を調達する際に、一定割合を発電事業者との長期相対契約によって確保することを義務付ける方策が検討されています。小売電気事業者が、スポット市場のみに依存せず、長期相対契約を締結することで、発電事業者(特に火力)もLNGを長期契約で確保するインセンティブになる、というわけです。
実現可能なのか?
残念ながら、この取組みは機能しないでしょう。
小売電気事業者が発電事業者と長期契約を締結するためには、顧客との販売契約も長期的に維持・継続する必要があります。しかし一般に販売契約期間は1年となっており、小売電気事業者にとっては、数年先の自身の販売電力量に対する見通しなど、立ってないのが実態です。多くの新電力は年度後半から年度末にかけて、翌年度の販売契約を更新(獲得)します。これに少し先立って、電力調達を前年度の秋頃から開始しているのです。
このような年間スケジュールにしたがって、販売・調達を実施している多くの小売電気事業者にとって、調達のみを長期化することは自身の経営にとって大きなリスクとなります。つまり発電事業者によるLNG購入の長期契約を可能にするために、小売・発電間の契約を長期化する、という発想は、単に燃料調達リスクを発電から小売にシフトしているに過ぎないのです。
電力自由化と逆行するLNG長期契約
これまで経産省は、電力市場を自由化、750社もの小売電気事業者の参入を実現し、新規参入者の電力調達を促進するため卸電力市場(スポット市場)を創設し、さらに発電・小売の分離を促す政策を取ってきました。これらの政策は電力市場の各段階(発電・小売間、小売・顧客間)における取引を、より短期的なものにする効果を有していました。
自由化以前は、旧電力会社による独占供給が行われており、将来の電力需要は、全て自社の販売電力量となることが確実でした。同時に発電と販売は一体となっていたため、中長期の販売電力量の見通しに基づいて、将来の燃料調達計画を立てることが可能だったわけです。
このような旧体制を自由化した段階で、供給不安への懸念からLNG長期契約を促進する政策に方針転換するのは、彼らの見通しの甘さを露呈するものと言ってよいでしょう。