2020年12月から2021年1月にかけて全国的な電力需給ひっ迫が顕在化してます。理由は寒波の中のLNG在庫不足です。
電力広域的運営推進機関は1月6日に非常災害対応本部を設置、一般送配電事業者に対する融通指示、発電事業者等への発電指示、地域間連系線(中部-関西間)の運用容量拡大などを行っています。今冬の電力需給ひっ迫時の広域機関の対応
日本卸電力取引所の卸電力スポット価格は年末以降、高騰を続け、1月10日20時30分に50Hzエリアで155円/kWhという既往最高値(同日時点)を更新しました。
各電力会社およびJERAはLNG確保のため奔走していますが、電力需給は予断をゆるさない状況が続いています。燃料不足が原因のため、需給ひっ迫は一時的なものでなく、しばらく継続すると考えられます。
LNGの在庫管理は極めて高度な判断を要する作業です。電力会社は需要見通し、他電源の発電状況、LNGの入船見込み、燃料費の経済性等、さまざまな観点から在庫管理を行っています。
・需要見通し
電力会社は前月、前週、前日などの各時点で需要想定を行います。想定は周囲が考える以上に難しい作業で、特に猛暑・厳冬時には大きく増加するため、ミドル供給力であるLNG消費量は想定以上に大きく増加することがあります。
今回、特に需要想定が困難だったと思われるのは、全国的な寒波に加えてコロナ禍で初めての冬を迎えたことです。例年と異なり、在宅による暖房が電力需要を大きく押し上げたため、12月の全国の電力需要は対前年3.8%増、1月以降も2桁の需要増が継続しており、LNG消費が一気に増加したものと思われます。
・他電源の発電状況
LNG在庫を考える際、原子力、石炭など大規模電源の計画停止は当然ですが、計画外停止のリスクも考慮する必要があります。特に石炭火力の計画外停止は決して珍しくなく、今回も九州電力松浦2号出力低下(12月29日、50万kW)、電源開発松島2号計画外停止(1月7日、50万kW)など大型電源の出力減が発生してます。発電情報公開システム
適正在庫を確保する際は、このような他電源の出力低下リスクを勘案する必要があります。最近では、太陽光など再エネの出力変動に加え、石油火力が相次いで休廃止され、バッファ機能を果せなくなっていることも苛酷な要素です。
・LNGの入船見込み
全国の各タンクへ向けたタンカーの入船は、ある程度予定が決まっています。在庫不足が見込まれた場合、スポット調達により手配を行いますが、入着に1か月~2か月を要するため、裕度をもった判断が必要になります。また特に外洋では気象条件に応じて入港等が一時的に困難になり、予定通りに入着できないことがあります。在庫管理上はこのようなリスクも念頭に置く必要があります。
・燃料費の経済性
電力会社が長期契約等で購入するLNGは割高で、スポット調達は相対的に安価な傾向にあります。両者の価格差は2018年秋から2020年夏まで顕著でした。九州電力が2019年度中間決算で太陽光発電の増加に伴い、LNG余剰在庫を市場価格で売却し、130億円の損失を計上したのは記憶に新しいところです。
2020年度第1四半期にはコロナ禍による需要低迷で、各電力は過剰在庫を抱え、処分に頭を悩ませてました。夏以降の需要回復と原子力の稼働停止を好機ととらえ、余剰在庫を卸電力市場に放出することで評価損発生を回避したと思われます。自由化のもと経済性を重視するのは当然のことで、その結果、冬季以降の在庫不足に陥ってしまった可能性があります。
このようにLNG在庫管理は多くの要素を考慮する必要があります。適正在庫について正解はない、と考えてよいでしょう。
特に最近では新電力の乱立による需要想定の錯綜、送配電分離・発販分離による旧一般電気事業者の細分化、仮処分決定等による原子力発電の突然の停止、大量に導入された再エネ発電の変動など、LNG火力の負担は顕著に増えています。
事実上、LNG発電は供給義務の最後の担い手になっているのです。
しかし改正後の電気事業法では、JERAを始めとした発電事業者に法的な供給義務はありません。旧法下ならばともかく、自由化された改正法下で、なぜ安定供給のためのLNG在庫管理が必要なのか、根本的な問いかけが発生しているのです。