動き出した核燃料サイクル

核燃料サイクルが大きく動き出しました。10月には政府が10年ぶりに核燃料サイクル協議会を開催し、また北海道寿都町が原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)の最終処分候補地選定の文献調査に応募しました。最終処分候補地の公募には神恵内村や本州の数か所が名乗りを上げることが確実視されています。

まずは2020年の動きをふり返ってみましょう。

 5月13日 原子力規制委 日本原燃の再処理事業変更許可審査書案了承

 6月19日   同    東京電力の柏崎刈羽6,7号機設置変更許可

 7月29日   同    日本原燃の再処理事業変更許可

 8月21日  内閣府   日本のプルトニウム保有量発表(2019年末45.5t)

 9月 2日 原子力規制委 リサイクル燃料貯蔵(RFS)中間貯蔵施設審査書案了承

 9月25日 ATENA  プラント長期停止期間中における保全ガイドライン公表

10月 7日 原子力規制委 日本原燃のMOX燃料工場審査書案了承

10月 9日 寿都町・神恵内村 NUMOの最終処分地選定応募、文献調査申入れ受諾

10月16日 資エ庁長官  福井県知事に美浜3、高浜1,2号の40年超運転協力要請

10月21日 核燃料サイクル協議会開催

10月30日 原子力規制委 東京電力の柏崎刈羽保安規定変更認可

11月 9日 NHKなど  海外の高レベル放射性廃棄物返還報道

11月11日   同    リサイクル燃料貯蔵の中間貯蔵施設事業変更許可

11月11日 宮城県知事  東北電力女川2号機の再稼働に同意表明

 

少し長くなりましたが、いずれも極めて重要な動きです。これらの動きは核燃料サイクルのフロント・バック・エンドの3つの行程に大別できます。

 

1 原子力発電所の再稼働(=フロント)

 BWR(女川、柏崎刈羽)の再稼働とPWRの40年超過運転へ向けた官民、地方自治体の動静

2 使用済燃料サイクル(=バック)

 原子力規制委による日本原燃の再処理・MOX加工事業、中間貯蔵施設への許可、了承

3 高レベル放射性廃棄物の最終処分(=エンド)

 地方自治体による最終処分選定応募と海外再処理後の高レベル廃棄物返還の動き

 

東日本大震災以来10年を経て、わずか半年間にこれらの動きが顕在化し、核燃料サイクルが一気に動き始めた(動かし始めた)ことがお分かりいただけると思います。

なぜこのような動静が相次いでいるのでしょうか。

大きな契機は5月13日に原子力規制委が日本原燃の再処理事業の変更許可審査書案を了承したことでした。これにより再処理事業が大きく前進することが確実視されたわけです。再処理事業の進捗は、青森県内でプルトニウム・高レベル放射性廃棄物が発生することを意味します。日本原燃は現時点で同事業の竣工を2022年上期と計画しており、かりに同事業がフル稼働した場合、約7t/年のプルトニウムが発生します。

青森県はかねてから、プルトニウム・高レベル廃棄物の県外移転を強く要請しています。このため原子力規制委による再処理事業の許可に合わせて、県外移転の保証をさらに強く求め始めているわけです。

プルトニウムの移転にはプルサーマルの稼働が、高レベル放射性廃棄物の移転には最終処分候補地の選定が不可欠です。このため政官財が一致して、青森県の要請に応えるため、原子力発電所の再稼働とNUMOによる最終処分候補地選定プロセスを急いで進めることとなりました。すでに列挙した動静の背後にはこのような事情があるわけです。

この政治的な背景を目の当たりにすると、この半年間の動きに頼りなさを感じます。

電力業界は近いうちにプルトニウム利用計画を公表します。この計画では日本原燃再処理工場フル稼働を前提とした、つまり年間7tのプルトニウムを消費するプルサーマル稼働計画を公表することが確実です。そこにはJパワーの大間原子力をはじめとして、容易には稼働しない発電所が含まれます。日本原燃の再処理工場稼働と同様に、現実的に困難な計画を作成し、青森県からの政治的要請に応えた体裁をとろうとしているわけです。

実務的困難は山積してます。フロントであれバックであれ、核燃料サイクルの実現は茨の道です。しかし2020年に強く進んだモメンタムを追い風にして、個々の計画を周到に進めるべき好機が訪れたわけです。