2020年1月の通常国会に上程する電気事業法改正に向けて、経産省は各委員会の検討内容のとりまとめを行っています。
この中で電力関係者がとまどっているのは分散型グリッド(マイクログリッドとも表現されます)のライセンス化です。具体的には一般送配電事業者から譲渡・貸与された配電系統を維持・運用し、託送供給を行う「配電事業者」を新たな事業類型として法的に新設しようというものです。
経産省は事業新設の理由として、近年の災害による大規模停電の長期化をうけ、特定地域で分散型エネルギーを活用した系統運用に参入することが、レジリエンス強化のために望ましいことをあげています。しかし十分な検討を行ったものとは思えず、以下のような重要な疑問が浮かびます。
・新規参入者の供給にかかる料金規制をどうするのか
・需要密度が高い地域でのクリームスキム目的の参入をいかに防止するのか
・一般送配電事業者の譲渡・貸与条件をどうするのか
委員会はこのような疑問に答えず、配電事業者の最終保証義務を一般送配電事業者に負わせる、配電事業者の設備メンテナンス義務は一般送配電事業者との契約で個別に定める、など、事業参入に伴う負担を一般送配電事業者に負わせており、新規参入を促進する措置を優先してます。
なぜ配電ライセンスを拙速に導入するのか?
真の狙いは何か?
電力業界の関心はこの点にあります。
まず考えられるのは総務省の強い意向です。分散型グリッドに対する総務省の要請には2つの背景があります。
第一にNTTグループの強い要請です。同グループは2019年6月、スマートエネルギーソリューションを担うNTTアノードエナジー株式会社を設立しました。同社を通じてエネットの議決権の過半を取得するなど、発電・小売の枠組みを超えたネットワーク事業に強い参入意欲を見せています。第二に自治体の要請です。災害多発を受けてエネルギー供給強靭化、地元雇用の創出、低炭素化、地産地消など、様々な理由から地方自治体の分散型グリッドへの参入意欲が強まっているのです。これらを背景に総務省は高市早苗大臣を前面に立て、分散型グリッド事業の新設を強力に推進しました。この動きが今回の制度新設の背景にあります。
しかしこれが全てではありません。経産省には別の大きな狙いがあります。
3.11以降、経産省が10電力体制の再編を目論んでいるのは周知のとおりです。「再編」には2つの意味があります。1つ目は発・送・販の分離、2つ目はネットワークの全国統合です。
経産省は電源競争を全国レベルで実現するにはネットワークの統合が不可欠だと考えています。彼らはネットワークが9電力に分離されたままでは、電力会社間の連系容量が不十分なため電源競争が機能せず、実質的にアンシャンレジームが保護されると考えています。このためネットワークの統合(全国1社または50Hz・60Hz ごとの2社)と広域機関主導による連系線強化を、電力再編の必要条件ととらえています。
このようにネットワークを大規模電源を繋ぐ手段と考えると、官僚の狙いは送電設備に限定されることが想像できます。つまり電力再編を目的とすると「ネットワーク」とは電源をつなぐ送電設備のことで、配電設備は経産省の関心外なのです。
この結果、ネットワーク統合の一里塚として、送電・配電ライセンスの分離という新しいステップが産まれます。送配電一体のままネットワーク統合を目指すのでなく、まず地域色の強い配電部門をネットワークから分離したのちに送電部門のみを統合した方が、一見遠回りに見えて実は電力再編へ向けた近道だと官僚は考えているわけです。
分散型グリッドとは配電ネットワークの細分化です。配電事業に多数の事業者を参入させ、送電・配電の事実上の分離を促すことで、送電・配電ライセンスの分離を実現しようとしているのです。
すこし気の早い話になりますが、2020年代の早い段階で次の電気事業法改正が行われ、送電と配電のライセンスは分離されるでしょう。このことが広域的運営機関の機能強化と相まって、送電部門の実質的な統合、次なる電力再編につながることが官僚の真の狙いなのです。