台風15号による停電は千葉県のほぼ全域におよび、9月9日の発生以降、長期化の様相を呈しています。今回の停電では東京電力パワーグリッド(東電PG)の復旧見通しが二転三転し批判を浴びています。ここではまず、停電復旧が長期化する理由を考えたいと思います。
台風15号の主な被害は配電設備
今回の停電は主に配電設備の被災により発生しています。停電発生当初は送電鉄塔2基の倒壊がクローズアップされましたが、この影響による停電戸数は10万戸(東電PG発表)とされており、千葉県の最大停電戸数(約63万7千軒=9月9日午前7時50分)のほとんどが配電設備によるものであることがわかります。一般に広域配電設備の復旧プロセスは以下の通りです。
1 被災状況の把握
まず配電用変電所から延びる各フィーダーごとの被災状況を目視により確認する必要があります。極めて地道な作業ですが、この段階では停電地域をくまなく巡視し、電柱倒壊、倒木・飛来物による断線、柱上変圧器の破損状況を網羅する必要があります。被災が極めて広範囲にわたり人員も限られていること、道路も倒木などで寸断されていることなどから、特に山間部ではこの作業に相当の時間を要します。また初動時には発見できなかった損傷が施工時に明らかになる、といった事象がすでに多数、発生しています。想像ですが、山間部では現時点(9月15日)でも巡視できていない地域があるのではないでしょうか。
2 資機材の確保
復旧には電柱、配電線、柱上変圧器、付属設備の調達と重機の確保が必要になります。さらにこれらの資機材を現地周辺へ搬送したうえで、十分なスペースの保管場所に一時的に集約することが必要です。被災範囲がこれだけ大きい場合、相当な広さの資材置き場を県内各地に数多く設営する必要があります。東電PGでは従来から資材置き場の合理化を繰り返しており、配電部門ではかねてより大規模災害時のスペース不足を懸念する声があったといわれています。
3 施工力の確保
そして施工者の確保です。協力会社、他電力からの応援を仰ぎ、総勢16,000人体制で臨んでいるとされてます(9月13日時点)。これら作業者の飲料水、食料、トイレ、宿泊所も同時に確保する必要があります。施工者確保とは、単に作業人員の確保のみならず、これらロジスティクスを含む広い調整を要する作業になります。
4 通信手段の確保
電力会社の通信部門は災害に備えて、通信衛星を活用した通信手段を用意しています。しかしそのための機器は極めて限られており、千葉県下の広域で携帯電話が使えない状況で、作業者が連絡を取り合うことは極めて困難な状況となっています。被災状況把握→資機材調達→施工→送電のプロセスが理屈通りに通用する状況ではない中で、通信手段が制限されているのは復旧にむけて極めて大きな障害となっています。
極めて困難な現場復旧作業
これら被災状況の把握、資機材・施工力の確保を相互に調整したうえで同時進行させることは現実的に不可能といって差し支えないでしょう。特に問題となっているのが倒木です。報道されているように自衛隊が除去に参加してますが、電線に接触している倒木の除去には電力保守の作業員の立会いが必要です。自衛隊は到着したが電力社員が不在のため、倒木除去に取りかかれない、といった事態がおきています。ロジスティクスの難しさがこのようなところに現れています。
世耕大臣発言の問題
東電PGは楽観的な復旧見通しを公表し、その後修正するということを繰り返しています。この背景には9月10日の世耕経済産業大臣(当時)発言「10日中に少なくとも33万戸の停電が解消される」(閣議後会見)があります。これはさすがに不用意な発言でしょう。10日の段階では被災状況の把握すら十分出来ていないはずです。この状態で大臣が復旧見通しについて具体的な数字を示したこと、実態はその通りに進捗しなかったことから、その後も大臣発言の修正理由をあげつつ、数値をふくめた復旧見通しを公表せざるをえない羽目に陥ってしまいました。
今回のような大規模で社会的影響が甚大な災害では、政治家や国は必ずといっていいほど具体的数字をふくめた復旧見通しの公開を要請します。国の支配下にある東電PGが見通しの立たないまま、このような数字を報告したのか、東電からの報告を得ないまま大臣が一方的に発表を行ったのか、詳細は不明です。千葉市長の指摘の通り「悲観的な見通しを公表することの方が重要である」ことを肝に銘じるべきでしょう。
次に今回の停電が長期化する東電固有の理由について深堀りしたいと思います。