エナジーパートナーの2019年度決算は赤字
東京電力で財務問題が持ち上がっているようです。東電エナジーパートナー(以下、エナジーパートナー)の2019年度予算は当初、約50億円程度の黒字見込みだったのですが、現時点で約500億円の赤字見込みとなっているようです。
顧客を奪われる一方の首都圏のマーケット見通しが甘かったこと、また法人販売で年度当初から無理な割引を強行した結果、早くも第一四半期でこのような状況になったようです。秋本展秀社長は事態を親会社である東京電力ホールディングスに伝え、救済措置を要請しているようです。
財務制限条項と融資引上げリスク
東京電力グループの場合、エナジーパートナーなどの事業子会社の赤字決算は極めて重い事態を招きます。
東電に融資する際、金融機関に不利益が発生した場合には、融資を解除できる条項が定められています。これは東日本大震災によって信用力が著しく低下した東電に対して特に設けられているもので、当然のことながら財務健全性を担保するため厳しい内容となっています。この条項には東電グループの3つの事業会社が黒字を維持することが含まれており、エナジーパートナーが赤字決算となった場合、同条項を遵守できず、融資期限前に返済を迫られる可能性があるのです。
強引な値引きの反動
それにしても、なぜこのようなことになったのでしょうか。エナジーパートナーは2015年下半期から100%子会社のTCSを活用し、他の旧一般電気事業者のエリアに大幅な値下げ攻勢を仕掛けました。
しかし福島第一原子力の廃炉や賠償債務を抱える東電に、このような値下げを継続する体力はありません。加えて関西、四国、九州電力で原子力発電所が再稼働したため、東電の競争力は一気に劣位に立たされます。さらに2016年度から全面自由化が開始され首都圏の需要は東ガス、JXTG、他の旧一般電気事業者に奪われるようになりました。窮地に立たされた東電は失った需要を回復するために、赤字覚悟の更なる値下げを行う悪循環に陥っており、冒頭のような事態を招いているのです。
東電ホールディングスの因果応報
東電エナジーパートナーの前身であるカスタマーサービスカンパニー時代にはこのような営業を自重していたのは周知の通りです。しかし小早川智明前社長(現ホールディングス社長)がコストを反映しない営業を展開し、無理な値下げを強行しました。具体的には電源コストのうち、固定費相当をディスカウントすることで電気料金の価格破壊を引き起こしたわけです(このことは経産省が目指す10電力体制弱体化に貢献することとなり、小早川氏はホールディングス社長となりました)。
販売担務時代に目先の顧客獲得を優先し、過剰な割引を実施した結果、自身が経営に携わった東電ホールディングスの融資引上げリスクをひき起こしてしまっているとすれば、なんとも皮肉な結果です。東電グループはエナジーパートナーに対する原子力電源の固定費をディスカウントすることでこの事態を乗り切ろうとしているようです。