一般担保廃止 新たな再編の仕掛け

改正電気事業法の施行は2020年4月に第三段階を迎え、送配電分離が実施されます。電力各社は設立準備会社を新設し、送配電子会社の役員人事を固めつつあり、業界の耳目はこの点に集まっています。しかし注目度は低いのですが、もうひとつ極めて重要な制度変更が控えてます。

一般担保の廃止です。

一般担保付社債とは、特定の担保を設定することなく、社債権者が発行会社の全財産について他の債権者に優先して弁済を受ける権利を与えられた債券のことをいいます。社債権者に先取特権を与える優遇措置で、電力会社の資金調達と電力インフラ投資は、この一般担保制度によって強く支えられてきました。

しかし電力自由化に伴い、特に自前電源を有する新電力との対等な競争条件を確保すること、社債調達の主流が無担保社債に移行しつつあることなどから、この制度は2020年3月末に終了することとなりました(発電・送配電事業については5年間の経過措置をもうけ、この間は一般担保付社債を発行できます)。

電力会社の中長期的な資金調達の必要性を考えてみましょう。原子力分野は厳しくなる一方の安全規制への対応に加え、事故炉・一般炉の廃炉プロセスが本格化するため、巨額の資金を必要としており、しかも上限は明らかになっていません。流通設備はレジリエンス、再エネ対応投資の必要に加え、高経年対策の更新投資が顕在化することは必至です。

他方、収入は先細る一方です。電力需要の構造的低迷に加え、行き過ぎた価格競争を電力会社自身が招いたことで、電気料金収入が先細ることは避けられないでしょう。

これらの厳しい環境下での資金調達を可能とするため、一般担保制度を継続してはどうか、という意見が根強く残っていました。しかし金融機関は電力の債務返済能力に強い疑問を持ちはじめており、一般担保継続ではデフォルトリスクを改善することはできないと考えています。このため電力のデフォルトに備え、財政投融資等を活用した国の債務保証を要求しています。

このような融資制度が実現すると、資金面での国による支配が可能となります。株式を通じて東京電力を支配した国は融資を通じて全国の電力会社を支配しようとしていると考えられます。JERA設立により火力発電の統合を実現した国は、周知の通り、東京電力の総合特別事業計画を通じて、原子力・送配電の再編を考えています。現時点でこの目論見は実現していませんが、電力各社の資金調達を支配することで再編の現実味は大きく増します。

一般担保の廃止を契機として、資金返済の保証が欲しい金融機関と資金支配を通じて電力再編を目論む国との利害が一致したのです。電力の経営者はこの仕掛けにまだ気づいていませんが、一般担保の廃止は新たな電力再編への一里塚となる可能性を孕んでいるのです。