電力需要はリーマンショック以降、低迷・減少を続けています。特に家庭用・業務用需要の減少傾向は、リーマンショック以前と比べて著しく、理由としてスマートフォンによる生活様式の変化、LED・太陽光発電の普及が考えられます。人口減少という長期的要因に加えて、これらの電力消費減少要因は今後も継続すると考えられ、しばらくの間、需要の低迷・減少傾向は継続すると考えられます。
では長期的にはどうなるのでしょうか?
電力関係の識者の多くは、長期的な電力需要の反転増加を予想しています。これは家庭用熱需要の電化や電気自動車の普及など、電化による需要増を見込んでいるためです。
「電化」が主張される背景に何があるのでしょうか?
電化が脚光を浴びつつある背景に、供給構造の変化があります。再生可能エネルギーの普及拡大で供給過剰が一部で顕在化していること、加えて脱炭素の立場から、エネルギー需要の電化を進めるべき、との考え方が世界的潮流になりつつあります。
ドイツでは再生可能エネルギーの余剰分を隣国に輸出する、揚水発電に利用する、等の取り組みが限界に達しています。このため電気自動車のバッテリー充電に活用する(Power-to-Mobility)、電気分解して水素を燃料電池に活用する(Power-to-Gas)などの手法により、電気エネルギーを他のエネルギー利用に拡大する考え方が出てきました。「セクター統合(Sector-Coupling)」と称されるこの考え方は、再生可能エネルギーが拡大した供給構造の変化を受けて、エネルギー需要構造を変えることにより、余剰電力活用と脱炭素化を同時に実現しようというものです。ドイツのみならず、他の大陸ヨーロッパ、アメリカでも類似の動静が徐々に広がっています。
日本でも周知のとおり、九州電力が2018年10月13日、本島では初となる再エネ出力制御を実施しました。この動きは今後、四国・中国・東北電力など、他の電力会社にも波及すると考えて間違いないでしょう。日本のような資源小国では再生可能エネルギーの出力制御はいかにも「もったいない」政策と言わざるを得ず、常態化した後に一般の理解を得続けることは困難でしょう。
電化拡大はこのような供給側の事情に由来する発想です。従来の需要想定は、電力需要を独立変数ととらえ、その動向を予測することを主たる作業としてきました。今後は供給との相互関係を十分念頭に置いた、ダイナミックな考え方が要求される時代が到来したのです。