猛暑が続く今夏、電力会社ではデマンドレスポンスを活用した需要抑制が相次いでいます。関西電力では7月17、18日、東京電力では8月1、2日の連日、厳気象時調整力として予め確保した需要抑制を実施し、厳しい需給ひっ迫を凌ぎました。
電源I’(いちだっしゅ)という難解な名称をつけられている、この調整力確保について簡単に整理しましょう。
まず、調整力を確保する主体は電力会社の送配電部門です。必要とされる調整力は10年に1回発生する厳気象に耐えうる量として、広域的運営推進機関が予め決定します。送配電部門はこれに相当する発電能力または需要抑制力を入札募集によって確保します。供給力確保を実現する手段は、供給増・需要減いずれでも良いのですが、滅多なことでは発動されないことから、需要減すなわちデマンドレスポンスによる応札が多くみられます。
需要抑制量はどのように確保されるのでしょうか。
電力会社は古くから、大口産業界を中心に需給調整契約と呼ばれる需要抑制量を確保し、需給ひっ迫に備えてきました。夏季・冬季に備え、工場の操業を予め休日や夜間にシフトするもの、ひっ迫数時間前に事前通告を経て負荷調整を行うものなどで、電力会社は相当の料金割引を実施してました。しかし電力需要の低迷、太陽光発電の普及に加え、コストダウンの必要性から、これらの契約は現在、相当数が解約されています。
デマンドレスポンス事業者は産業界に働きかけ、工場で以前から確保されてきた需要抑制力を廉価で買い取り、募集に応募しています。このように確保した調整力を、電力会社送配電部門の要請があった時に発動し、需要を抑制するのです。つまり需要抑制の主体は現在でも産業界と考えてよいでしょう。
こうした実態を見ると、従来の需給調整契約と現在のデマンドレスポンスは大きな差異はないように感じられますが、昨今は経済性を重視した新しい動きが出てきました。
卸電力取引所のスポット市場では、需給ひっ迫時の価格高騰が顕著で、今夏は100円/kWhを超過する時間帯も見受けられます。デマンドレスポンス事業者はこれを商機と考えて、価格高騰時に需要抑制を発動、その余剰電力を取引所で販売し、利鞘を稼ごうとしているのです。すでに東京電力エナジーパートナーとエナジープールジャパンはこのような取引(経済デマンドレスポンス)を開始しました。
これは事実上、抑制余力を抱えた産業界から需給ひっ迫に悩む小売事業者への事実上の転売にほかなりません。デマンドレスポンス事業者は双方の仲介役として、裁定取引を斡旋していると考えられます。
このような取引は今後、さまざまな形で実現することになるでしょう。その結果、同一時間帯の小売・卸電力料金、デマンドレスポンス対価、再生可能エネルギー購入単価などは、長い目で見れば収れんしていくと考えられますが、そのためには相当な時間を要します。この間、価格差に目をつけた新たなビジネスが多数、出現することが予想されます。経済デマンドレスポンスはこのような取引の嚆矢となるのではないでしょうか。