就職先を選ぶ際に重要な要素は何でしょうか?
業界・企業の将来性・安定性・労働条件など、さまざまなものがあるでしょう。しかし終身雇用の時代は終わりました。30~40年に亘り、東京電力や関西電力の将来性・安定性はどうなのか、と問われれば、正しい答えは誰にも分りません。10年はおろか、5年先の見通しも定かでないのが実態です。
重視すべきは皆さんの成長に適切な機会を与えてくれるかどうか、です。仕事を通じて実力をつけることが皆さんにとって最も肝要だからです。従来、電力業界の実務は比較的単調な保守・管理・計画業務が中心でした。しかし現在の電力業界は従来にない、新たな取組みを模索している過程にあり、皆さんが自分自身を鍛える機会に満ちているといって間違いないでしょう。
将来の人口減が確実な中で、国内エネルギー市場に大きな成長は見込めない、という見方が一般的です。この危機感を経営者は共有しており、各社とも生き残りをかけた方策を模索しているからです。
具体例を上げてみましょう。
1 発電機の稼働率向上
競争環境が一段と厳しくなり、高効率電源の稼働率向上が極めて重要になっています。電力会社は、電源トラブルの因果関係解明をメーカーに委ねる傾向がありましたが、自ら保有する発電機のビッグデータとトラブルの相関関係を分析し、事前にトラブル予兆をつかむことで稼働率向上を実現しようとしています。
2 不特定多数の発電者・消費者の仲介
太陽光発電の爆発的普及と家庭用自由化は、多数の発電者と価格に敏感な消費者を同時に創出しました。いずれFIT対象外となる小規模多数の発電者と消費者の仲介を行うことで需給マッチを実現し、将来的にはブロックチェーン技術を適用することで、信頼性と匿名性を確保した両者の直接取引を実現しよう、という取組みも始まっています。
3 再生可能エネルギーの需給制御
天候に左右される再生可能エネルギーの普及は需給制御に大きな課題をもたらしました。電力会社は専ら伝統的な大規模火力電源の出力制御により需給均衡を維持してきましたが、限界があります。遠隔操作・天候予測と蓄電池の利用により再生可能エネルギー自体に新たな制御機能と付加価値を持たせようとする取組みがいたるところで始まっています。
ここに挙げたのは厳しい事業環境に加え、再生可能エネルギー普及・全面自由化・デジタル技術の変貌などによってもたらされた電力会社の新たな取組みの一部です。電力会社は伝統的に新事業の目利きが決して得意ではなく、これらの多くは成果を上げられずに撤退する可能性があります。
しかし皆さんにとって重要なことは、企業が本気になって取り組む(取り組まざるを得ない)環境にあるのか、若手の創意を後押しするのか、資金的に新分野進出が継続可能なのか、といったことでしょう。
その環境は十分整っています。
もとより伝統的インフラ企業の実務は多くのルーティン業務から構成されており、これらを正確に行うことが個人の信用を築きます。新人配属先の多くはこのような実務になるでしょう。同時に電力会社はここに記したような機会に敏感になっており、有為の人財を新分野に注ぐ意欲がかつてないほど高まっています。
皆さんを成長させる素地は十分整っています。あとはご本人次第でしょう。