原子力レジームの転換点(2)

原子力開発は日本のエネルギー政策の中心に据えられてきました。政府は電力会社に対し、開発に対するリターンとして利益を保証する政策を講じてきました。今回はこのような国と電力会社の二人三脚による原子力開発の枠組みがどのように変化したかを考えたいと思います。

まず電力市場の自由化が大きな衝撃となりました。英米で80年代以降、思想的潮流となった新自由主義が日本にも伝播し、電力市場では90年代半ば以降、自由化措置がゆっくりと、しかし着実に拡大しました。とりわけ重要だったのは2016年度に一般家庭を含む全面自由化が実現し、小売料金規制が完全に撤廃されたことでしょう。

原子力開発は巨額の投資を必要とします。その回収を担保する料金規制が撤廃されたことは、リターン保証が失われたことを意味します。現実に市場では値崩れがおきており、事業者が巨額の投資を長期安定的に回収する意識は失われています。長期回収を必要とする原子力開発と料金規制・市場自由化はそもそも相いれない性質のものだということが明らかになりました。

ついで原子力事故による原子力政策の変化です。周知のとおり、東日本大震災以降、安全規制の相次ぐ強化、原子力災害の無過失無限責任の制度化により、原子力利用はさらに巨額の投資を要するのみならず、許容水準を超えるリスクを抱えることになりました。

加えて40年(60年)運転規制と司法リスクが原子力稼働を制約します。さらに最近では安全協定の締結を周辺自治体に適用する動きが拡大しつつあり、稼働をめぐる制約は拡大する一方です。原子力発電所はいまや巨額の資本費を発生させる非稼働資産となってしまった印象があります。

最後にこのような環境変化が、従来の政策が抱えていた課題を強く再認識させる機会となりました。いまだ決定していない高レベル放射性廃棄物の処分地、稼働延期を重ねる日本原燃の六ケ所再処理工場、もんじゅ廃炉決定が余剰プルトニウム問題、ひいては国際社会に与える影響等、どれをとっても難問で一朝一夕に解決できる問題ではありません。

このような環境変化の中で、原子力開発を国策の中心に据え、民間電力会社がその推進を担い、国は原子力開発による民間の利益を政治的・経済的に保証する環境を整える、という従来の原子力レジームは崩れてしまったのです。

電力会社が原子力を開発する経済インセンティブは失われました。90年代以降の新自由主義を重視する政策と東日本大震災による原子力事故により、このような環境変化が起きたことを深く理解することが肝要です。

政府がエネルギー政策で2050年の原子力をどのように位置づけようと、もはや実質的な影響はないでしょう。開発主体が経済性を期待できない状況に至ったことが根幹にあり、今後の原子力開発に多くを期待できなくなったのです。