北陸電力は2018年4月1日より、一部の電気料金を値上げすると発表しました。対象は料金規制対象外の顧客で値上げ率は5~10%に上る見込みです。同社は中国電力とともに東日本大震災以降、値上げを行わなかった数少ない電力会社ですが、志賀原子力の発電停止による費用増を賄えないと判断したわけです。
今般の値上げは、電力会社が抱える経営課題を浮き彫りにしています。まず値上げの対象が大口・オール電化顧客に限定されている点が注目されます。
電力会社は発電所の稼働率を高めるため、夜間需要を増やすことに腐心してきました。24時間稼働の超大口顧客やオール電化顧客に対する安価な夜間料金は、発電設備の稼働率向上に一定の役割を果たしてきました。夜間料金が安価なのは発電コストに限定された課金設定になっているからです。夜間需要に対してその限界費用である発電コストのみを回収し、ネットワークコストは課金しないという考え方が根底にあり、そこには一定の合理性があったのです。
近い将来、この考え方は通用しなくなります。
周知のように、一般電気事業者は電気事業法改正により2020年にネットワーク分離を義務付けられます。このため一般電気事業者も新電力も、昼も夜も、ネットワーク料金を支払うことになります。すなわち顧客が24時間稼働の工場でもオール電化住宅でも、小売事業者はネットワーク料金を支払います。分離後の各事業会社の経営者にとって自組織の利益確保は至上命題でしょう。過去の経緯からネットワーク料金を課金してなかった料金水準を値上げすることは今や避けて通れない課題で、今般の値上げはこの命題に対する1つの方向性を示しています。
次いで値上げ範囲が従量料金に限定され、基本料金は据え置かれていることも極めて重要です。
電力はいわずと知れた設備産業であり、固定的経費が相対的に高い産業です。このため、電気料金は本来、高い基本料金を設定する必要がありますが、販売電力量が増加した時代が長く続いたこともあり、従量料金の比重を高めた料金設定を行い今日に至っています。
これからは事情が異なります。
長い目で見れば需要の先細りが見込まれます。このような環境下で一朝一夕には減らない設備関連費を、中長期的にいかに収益によって賄うか、を真剣に考えなくてはなりません。減少する従量料金よりも基本料金を値上げして、収益基盤の確保を図ることはいずれ不可避になるのではないでしょうか。北陸電力に限らず、電力各社はさまざまな事情から、この課題を先送りしているように感じます。
安価な夜間料金も、基本料金と従量料金の比重も、電力会社が古い経営環境下で一定の合理性をもって行った選択です。しかしネットワーク分離・需要の長期低迷といった昨今の環境変化によってその合理性が否定されつつある今、料金に対する歪みのないコストアロケーションを行う必要が出てきたわけです。
電力会社は今後、顧客の既得権・経済産業省の規制を克服するという困難な道を経つつ、時間ごとの料金のフラット化、基本料金と従量料金の比重の改善を徐々に行うことになるでしょう。わたしたち利用者も来るべきこのような変化に備える必要があるのです。