東京電力の経営自主性は回復できるのか?

現在の電力業界の大きな関心事項の1つに、今後の東京電力経営の方向性があります。周知の通り、議決権の過半を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、機構)が保有しており、同社は現在、経済産業省の支配下にあります。

2017年5月に発表された新々・総合特別事業計画(以下、新々計画)で、機構は2019年度末を目途に東電経営への関与の在り方を検討すると記されています。一般に、この時点での機構の判断が東電経営の人事、ひいては自主性回復を大きく左右する、と広く受け止められています。

しかし、東京電力が自己決定能力を回復することはありません。

現状を整理しましょう。機構は東京電力に1兆円を出資しています。機構の東電株は議決権を有するA株と、議決権のないB株(ともに非上場)の2種類があり、A・B双方の構成に応じて議決権保有率は変わります。現在、機構は過半数にちょうど届くA株の議決権を有しています(A・B双方合わせると潜在的には3分の2を十分超える比率になります)。

機構は東電の経営改革に一定の目途がついたと判断する場合、または公募債市場において自律的に資金調達を行っていると判断する場合に、議決権割合を2分の1未満に低減させる、との取決めがあります。具体的にはA株をB株に一部シフトすることで、議決権割合を過半数未満(例えば49%)にすることになります。新々計画の2019年度末の関与の在り方検討とは、このような措置を採るかどうかを判断することにほかなりません。

かりにこのようになったとして、実質的に何が変わるのでしょうか?

まず議決権について考えてみます。機構は東電に対しB株(議決権有り)を対価とするA株(議決権なし)の取得請求権を有しており(逆も可能です)、これにより議決権のないB株をいつでも議決権のあるA株に変更することができます。つまり、かりに経営関与見直しの結果、機構の議決権が過半を割り込んだとしても、B株をA株にシフトすることによって、議決権の過半を回復することは容易に実現できます。

加えてコーポレートガバナンスの問題があります。東京電力は会社法上、指名委員会等設置会社です。周知の通り、指名委員会は株主総会に諮る取締役の選任・解任を行う組織で、過半数が社外取締役によって構成されることが定められています。これら社外取締役は事実上、機構が選任します。すなわち東京電力の役員を決める人事権は指名委員会にあり、その指名委員会の社外取締役は機構が決める、という構図となっているわけです。

これらの環境は2019年度末に予定されている機構の関与の在り方検討の結果に関わりなく、継続します。

経済産業省としては機構を通じて東電経営を間接的に支配することにより、今後も日本のエネルギー政策を主導していく考えでしょう。福島第一原子力事故を発生させた東京電力が人事と経営自主性を回復することはもはやない、と言って差し支えありません。