電力需要はこのところ、低迷が続いています。
東日本大震災後、原子力発電が次々と稼働を停止しましたが、需給ひっ迫は起きていません。大きな理由の1つに需要の低迷があります。電力業界はその理由として「節電の定着」をあげています。
本当にそうでしょうか?
少子高齢化、未婚者の増加といった構造的な人口要因に加え、IT技術、LED、太陽光発電の導入によって電力需要を巡る環境は激変しました。私たちの生活を少し振り返ってみましょう。
日本の1世帯当たりの人数は減少を続けており、2.49人(平成26年6月)となっています。1人世帯が約3割、2人世帯も約3割を占めています。これらの方々の生活ぶりには大きな変化が起きています。
まず冷蔵庫を持たない独身者が増えています。とりわけ自炊をしない独身者はコンビニを冷蔵庫代わりに使っているのが実態です。加えて彼らはテレビ・パソコンを保有しません。いまやスマホが大画面AV機器の代わりを果たしています。小さな画面ではストレスが溜まるというのは旧世代の感覚です。いまや手軽なスマホの画面が生活のデファクトとなっているのです。
照明はどうでしょうか?徐々にではありますが、照明器具はLEDにとって代わられつつあります。長時間使用する照明はLED、短時間で済む照明は白熱灯・蛍光灯といった棲み分けが行われています(そもそも独りでスマホを見ている方は暗い部屋にいます)。
エアコン需要には根強いものがあると考えられます。しかしこれを遥かに上回るペースで太陽光発電が各家庭に装備されており、空調需要は事実上、太陽光発電によって相殺されているのが実態です。
東芝ライテックが装飾用LEDを発表したのが2006年、iPhoneの発売開始が2008年夏、太陽光の余剰電力買取り制度は2009年11月です。このように技術・制度面の変化はここ10年程度に一気に押し寄せました。この変化が人口要因といった長期に亘る構造的要因と重なって、最近の電力需要の低迷の原因となっているのです。
「節電の定着」とは少し安易な表現ではないでしょうか。
過去、二度の石油危機の際にも節電ブームがありましたが、その後、電力需要は力強く回復しました。過去の一次的な「節電」ではなく、需要低迷の背景に構造的な要因があることを踏まえて、長期的な経営判断を下すべきです。