激化する電源競争

経済産業省は電気事業法改正により、2020年の発送分離を電力会社に義務付けました。これに先立ち、東京電力では2016年4月に会社分割を実施し、発電・流通・販売の3事業会社を持株会社の傘下に置きました。

発送分離の最大のインパクトは電源が流通と切り離され、自由競争に晒されることでしょう。実際、安価な電源とされている石炭火力と高効率LNGの建設計画が、各地で目白押しとなっています。需要の急成長が望めない電力業界でこのような建設計画が相次ぐことで、2020年代には電源の過当競争が起こる可能性があります(その懸念からか、撤退を発表する電源計画も出始めました)。

競争に晒される以上、発電事業者は経済合理性を最重視した建設計画を立てることになります。国のエネルギーセキュリティや環境への影響を顧みるよりも、設備の投資回収を重視するのは企業として当然のことでしょう。しかし料金規制により原価回収が保証された時代は終わりました。投資回収が脅かされるリスクは寧ろ高まっているのです。

火力発電設備の投資回収期間は一般に15年程度です。この間、例えば環境税導入、LNG価格の高騰、原子力設備の再稼働等によって、電源競争力が激変する可能性があります。原子力設備の運転次第で火力発電の稼働状況が大きく左右されることは容易に想像できますし、現実に過去に起きていた事象です。

従来は電力会社とのIPP契約により10年~15年の購入契約を結んだ上で発電市場に参入する、といったことが可能でした。しかし最近、発表されている電源計画の多くはこのようなリスク回避方策を用意しないまま、市場参入を表明しています。

電源が10年~15年の長きに亘って、運転を継続する保証は全くありません。加えて電力購入側の産業界・一般消費者の契約期間は1年(せいぜい2~3年)です。購入側は相対的に安価な電源を抱える小売事業者に短期間で自由に乗り換えることができます。

発電の投資回収期間と顧客の電気契約期間には大きなギャップがあるのです。このようなリスクを見通すと、現在、公表されている2020年代の電源開発計画は大変危ういものに見えます。個々の電源のリスクの高まりは避けられず、安定的に運転を継続できる電源は比較的少ないと考えた方が良いでしょう。