電気事業法改正2020(その3) 託送情報

 今回は託送情報(より具体的にはスマートメーターの30分データ)についてみてみましょう。

 まず託送情報に関する現在の扱いをふり返ります。現行法23条(禁止行為等)では託送情報の目的外利用は禁じられています。したがってスマートメータ―の30分データ等を託送供給以外の目的に利用することは文理解釈上、不可能です。

 しかし23条の保護法益は電気事業における「公平な競争」の実現であって、この目的を損なわない限り、スマートメータ―のデータ活用は許容される、という解釈も十分成り立ちます。たとえば30分データの利用を目指すグリッドデータバンクラボのような活動は、この緩やかな法解釈のもとで可能となっていると考えられます。

 一般送配電事業者は新たなビジネス機会としてスマートメータ―の活用に大きな期待をかけており、このため、今般の電気事業法改正で23条が緩和されることを強く望んでいたはずです。

 この期待は2つの点で実現しなさそうです。

 まず、目的外利用が認容される託送情報の範囲はかなり制限される見込みです。30分データ等を最大限活用することを目指すのであれば、個人を識別・復元できない状態にした「匿名加工情報」を23条の適用除外とすることが必要でした。

 しかし改正電気事業法は適用除外の範囲を「統計情報」に限定しようとしています。

 統計情報とは、複数人の情報から得られる集計データ(たとえば東京都内で、ある月の電気使用量が100kWhの顧客は全体の20%、といったデータ)に過ぎず、個人との対応関係が排斥されます。目的外利用が統計情報に限定されると30分データの産業的価値は大きく減少します。この言葉の定義を巡っては2022年4月1日の施行日までに詰められることになりますが、改正法案をみる限り、その利用範囲はかなり限定的、と考えざるを得ません。

 次に託送情報を管理する主体として新たに中立機関を創設し、経産大臣の監督下に置くことが定められそうです。

 そもそも現在の個人情報保護法は個人情報等の利用の際、省庁間の介入を排除し、いわゆる縄張り争いを避けるため、個人情報保護委員会を創設し、その管理を同法のもとに一元化しました。この背景には個人データを新たな産業価値の源泉ととらえ、個人情報保護法のもとで最大限活用していこう、という理念があったわけです。

 今回の改正法案は託送情報を経産省の管理下に置き、同省がその利用を差配することを明記しており、残念ながら、経産省のエゴイズムが如実に顕れています。個人情報保護法は、プライバシー保護、産業利用促進、国際環境への配慮の3つの観点から、今後も改正されると考えられますが、電力データに関する限り、経産省のいわば治外法権下に置くことを宣言したわけです。このような省益重視の姿勢は今に始まったことではありませんが、中長期的に電力業界の利益を損ない、経産省の官僚自身にはね返ってくることを十分認識すべきでしょう。