東京電力と中部電力は2019年4月に既存火力発電所をJERAに統合します。発電規模6,700万kW 、LNG取扱量3,500万tの火力発電事業が誕生します。JERAの統合本格化に伴い、私たちは電力小売市場への影響を深く考えるべき段階に入りました。
東京電力エナジーパートナーと中部電力小売事業との競合関係は今後、新しいステージに入ります。
現在の両者の販売スタイルは少し異なります。東京電力EPは関東では自らが顧客を確保し、関東以外の地域では100%子会社(テプコカスタマーサービス、以下TCS)が営業主体となっています。TCSは主な電源を東京電力EPから調達していますが、対価は燃料費相当のみで、安価な水準に抑えられています(固定費が含まれていないことが業界内では強く問題視されています)。
中部電力は中部圏以外の地域ではCDエナジーダイレクト(大阪ガスとの折半出資)、ダイヤモンドパワー(80%子会社)、シーエナジー(100%子会社)等の関係会社を主体として電気・ガスのセット販売やトータルソリューションを展開しています。
双方にとって首都圏は極めて重要な市場です。中部電力の電源は中部圏に位置しており、交直変換設備の容量制約があるため、首都圏進出には限界がありました。しかし4月以降、双方の電源がJERAに統合されることによって、中部電力は首都圏で事実上、無制限の電源を得ることになります。
中部電力にとってJERA統合の本旨はまさにこの点にあります。原子力の設備規模で圧倒される関西電力との競合から放たれて首都圏への販路を得たい、中部電力はこのためにJERA統合に踏み切ったわけです。
JERAから中部電力の関係会社に大量の卸電力を供給する、その条件を巡り折衝は始まっています。TCSが中部圏で燃料費のみの価格競争を仕掛けている以上、中部電力も関東で同様のことを仕掛ける機会を窺っているわけです。
JERAからの卸電力購入のほかにも電源獲得の方法はいくつかあります。JERAが保有する関東の発電所を直接購入する、東京電力と中部電力が50%ずつ保有するJERA株を獲得する等の方法が考えられます。原子力発電の再稼働・再エネ拡大によってJERAの先行きは厳しいものとなる可能性があります。このため事業環境が良い状況下で設備売却・株式公開に踏み切ることはJERAにとっても十分メリットがあります。
これに加えて事実上のJERA産みの親である経済産業省が小売自由化による9電力体制の再編を狙っていることは周知の事実です。中部電力による関東への本格進出と市場流動化は経産省が描いた大きな構図にも符号します。
いずれの手法であれ、JERAが保有する関東の電源を中部電力が有利な条件で獲得することで、小売事業の再編が一気に加速化することが考えられます。JERAの誕生は火力発電の再編に留まりません。むしろ関東の販路を巡る主導権争いの一里塚と理解するべきなのです。