ネットワークは健全か?

首都圏の送配電設備は健全か?

オリンピックを控え、このような問題提起が行われています。昨年の東京電力新座洞道火災は敷設後32年を経過したOFケーブルから火災が発生したもので、投資抑制の副作用が顕在化したのではないか、と懸念する向きもあります。

流通設備の経年劣化は着実に進展しています。

投資額の長期推移をみてみましょう。東京電力の設備投資は平成5年度にピークを記録、その額は1.7兆円に及んでいます(現在は1/3程度)。鉄塔・送配電線・地中ケーブル・変圧器の耐用年数は25~42年の長期にわたります。更新されてない設備の老朽化は着実に進んでいます。

しかし単に古いだけでリスクが高まっているわけではありません。

大きな問題が2つあります。電力会社がキャッシュバランス改善を余儀なくされる外部環境にあること、このため、合理的な設備投資判断が徐々にできなくなっていることです。

まずキャッシュについてみてみましょう。事故炉の廃炉費用積み立てを義務付けるための改正原子力損害賠償・廃炉等支援機構法が成立し、来年度より東京電力HDによる廃炉資金の積み立てが行われます。資金負担の主な担い手はパワーグリッドと考えられ、年間1,000億円を超えるキャッシュを捻出する必要があります。

すでに原子力規制委員会の新規制基準を満たすための巨額の原子力投資を余儀なくされており、東京電力HDの場合、年間1,000億円程度の追加投資が行われています。そこにこのような廃炉費用積み立て負担が加わるわけで、パワーグリッドのみならず東電グループの資金環境はさらに厳しくなることがはっきりしています。

このような資金環境から、投資はかなり厳しくチェックされるのが昨今の経営実態です。更新投資の必要性・合理性を論証することは意外と困難です。社内で厳しく査定されるため、設備の経年劣化に伴う予防的投資は実務的に忌避され、新座洞道火災のような社会的リスクが顕在化した設備に対する、つまり理解を得られやすい投資が優先される傾向にあります。

顕在化したリスクに対して事後的に手を打つことが悪いわけではありません。しかし予防に勝る治療はなく、経済合理性に優れているのも事実です。将来のリスクを判断してこれを軽減する投資を実現すべきですが、実態はそのようになっていません。

昨今では腐食が進み塗装が浮いている鉄塔、接続部の絶縁不良が散見される地中ケーブル、断線リスクのある高圧配電線があります。これらのリスクに応じて計画的に予防保全を進めることが、リスク顕在化後に一斉に改修を進めるよりも、長い目で見れば合理的です。