電力会社の使命は何でしょうか?
業界の方ならば「安定供給」と答える方が多いでしょう。しかしこの表現は少し抽象的です。具体的に何を意味しているのでしょうか。
「安定供給」を実現するために必要な要素は3つあります。
第1にエネルギー資源の調達です。ウラン、天然ガス、石炭、原油を確保することで電力需要をまかなうことです。
第2に発電設備の確保です。需要ピークに備えた発電設備を保有し、需給ひっ迫を回避することが必要です(東日本大震災時の計画停電はまさにこのような危機が顕在化した実例となってしまいました)。
第3に送配電ネットワークの健全性維持です。周波数・電圧維持、設備保護を通じて、健全な系統から送配電を行うことが必要です。
これら3つの要素のうち、今後、電力会社が担うべき要素は何なのか? このことを改めて考えてみましょう。
まず資源確保を電力会社が担うべき、などと考えるのは幻想でしょう。石油危機のような事態が発生した際、電力会社が果たせる役割はほとんどありません。資源確保は国の安全保障に関わる命題であって、企業に委ねられる領域ではないと思います。
発電設備の確保はどうでしょうか。電力自由化により、発電設備の投資回収は保証されなくなりました。経済合理性にしたがって電源建設を判断する時代が到来した以上、需給ひっ迫を回避するための電源建設を電力会社に求めるのは無理でしょう。
送配電ネットワークの健全性維持は電力会社の重要な役割であり続けるでしょう。周波数・電圧の維持、設備保護、公衆災害防止といった保護機能は、電力会社が担っており、地域の信頼の源泉もここにあることを、電力会社自身が深く理解していると考えられます。
このように考えると「安定供給」という言葉は電力自由化のもとでは、電力会社にとって「送配電ネットワークの健全性維持」という役割に限定されつつあることが明らかになります。
発電用原料の確保電力会社の手に余ること、経済性を重視する以上、需給ひっ迫を回避するための電源建設は行えないことを明確にし、あくまでもビジネスベースに考えることが、電力業界の再出発に必要です。