梶山経産相は7月3日、非効率石炭火力のフェードアウトを発表しました。経産省は7月以降の総合エネルギー調査会小委で具体的な政策を決定する方針です。
まず具体的な政策内容を観てみましょう。
省エネ法の規制強化
非効率石炭火力とは超臨界圧(SC=Super Critical、熱効率40%前後)と亜臨界圧(Sub-Critical、熱効率40%以下)の2つを指します。経産省は省エネ法の規制強化により、2030年にはこれらを廃止しようと考えています。
現在の省エネ法は、新設石炭火力の発電効率を超々臨界圧(USC=Ultra Super Critical、熱効率40%超)相当とすることを求めています。新たに「非効率石炭比率」等の指標を設けることで、2030年に非効率石炭火力比率をゼロにすることを求める模様です。さらに2020年代から定量的な中間目標を設定し、徐々に稼働抑制を実現しようとしています。
なお、北海道・沖縄電力については、供給予備力の観点から2030年以降も一定程度の非効率石炭火力の残存を認めると考えられます。
2021年の日程(COP26、エネルギー基本計画改定)
経産相の発表は政策面では2021年11月のCOP26グラスゴー会議とエネルギー基本計画改定を睨んだ動きといってよいでしょう。すでに政府は2020年3月30日にパリ協定に基づく国別目標(NDC=Nationally Determined Contribution)を提出しました。この内容は従来目標の据置き(2030年度の削減目標=2013年度比▲26%)に留まっており、2021年の再提出が確実視されています。
日本のNDC:地球温暖化対策推進本部(2020年3月30日)
今回の非効率石炭火力のフェードアウトはエネルギー基本計画の改定と併せて、2021年に再提出する国別目標の削減目標深堀りを実現する為の手段の1つと考えられます。
グリーンリカバリーの動き
政治的には異なる思惑もあります。自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟は6月30日、梶山経産相に対し、発電側基本料金に対し慎重な制度設計を求める要望を提出しています。発電側基本料金とは新たに電力系統に接続する発電設備に対し、系統設備の建設費負担を求める制度で、2023年度の導入に向けて議論が進められてきたものです。
この制度は再生可能エネルギーの建設コスト増加に直結することから、再エネ電源の建設を地域振興の起爆剤にしようと考える、地方選出議員が反対する動きをみせているわけです。
今回の非効率石炭火力のフェードアウトは洋上風力を含めた再エネ電源建設をさらに促進することになります。政治家・官僚はポスト・コロナに向け、グリーンリカバリーによる投資促進・地域振興を実現しようと舵を切ったと考えられます。
JERA vs Jパワー・地方電力・共同火力
見落とせないのは電力業界内部の争いです。非効率石炭火力はJパワー・地方電力等に偏在しており、JERAや関西電力はわずかに碧南石炭火力1・2号機(計140万kW)があるのみです。特にJERAはガス火力を大量に抱えるため、組織的に石炭火力の縮小を目指してきたのは周知の事実です。
2020年度はコロナ禍により電力需要が低迷する一方で、各所で石炭火力の新設が相次いでいます。能代3号(東北電力:60万kW)、竹原新1号(Jパワー:60万kW)、鹿島2号(Jパワー・日本製鉄:64万kW)、勿来IGCC(54万kW)…。これら石炭火力の新設の影響でガス火力の発電量はさらなる縮小を余儀なくされています。
今回の梶山経産相の発表はこのような政治・官僚・業界のさまざまな思惑により大きく動き出したものです。すでにJパワー・地方電力は強い抵抗を示していますが、大勢は変わらないでしょう。
11月のアメリカ大統領選を待たずに、脱炭素へ向けた大きなうねりが始まりました。電力システム改革は、脱炭素をキーワードとして再び動き始めたのです。