(複雑化する環境ファイナンス)
SDG、ESG、PRI、ダイベストメント、スチュワードシップコード、TCFD、タクソノミー…。もうこのくらいにしておきましょう。環境ファイナンスは最近になってクローズアップされた比較的新しい概念ですが、その動きは多様で、私たちにとって全体像を理解することは困難になりつつあります。
環境ファイナンスは、単に地球温暖化防止という理想の為に持ち出されたわけではありません。世界的な金融緩和が長期化する中、機関投資家・金融機関はデフォルトリスクの回避を前提としつつ、新たな投融資機会を強く求めています。環境関連投融資に対する彼らのニーズは国際的・国内的に濃淡があり(たとえばEUとアメリカの政治的立場の相違等)、このため激しい主導権争いが展開されています。環境ファイナンスはこの渦中にあり、各国と事業主体はさまざまな駆け引きを行っています。
今回は環境ファイナンスの全体像のうち、石炭火力発電に対する間接金融にスポットをあてたいと思います。これは日本の電力会社が現在、石炭火力発電に対する融資確保・継続に強い懸念をもっているためです。
(邦銀メガ3行の融資方針)
現在、メガ3行は融資に関する環境方針を明確化しており、この中で(細かい表現は異なりますが)超々臨界圧石炭火力に対する融資に応じる方針を継続しています。
MUFJ 「環境・社会ポリシーフレームワーク」
https://www.mufg.jp/csr/policy/
三井住友フィナンシャルグループ 「環境リスクへの対応」
https://www.smfg.co.jp/sustainability/materiality/environment/risk/
みずほFG 「責任ある投融資等の概要」
https://www.mizuho-fg.co.jp/csr/business/investment/pdf/investment.pdf
※いずれも「石炭火力」に関する記載を参照してください。
この背景の1つに、電力自由化が加速する中、電力各社が燃料費低減の一環として、新しい石炭火力発電所(超々臨界圧)を建設・計画しており、メガバンクがプロジェクトファイナンスに応じている実態があります。
しかし同時にメガバンクは石炭火力に対する融資について、国際的に厳しい目を向けられています(この点については機会を改めてご説明します)。このため融資方針の内容は年々、厳しくなる一方で、融資を受ける電力会社もその先行きを強く懸念しているわけです。
(小泉環境相の動静)
石炭火力への融資は、さらに新しい試練に直面しています。周知の通り、小泉環境大臣は、ベトナムの「ブンアン2石炭火力発電事業」への本邦投融資に異議を唱えています。同大臣は本邦融資の4要件*見直しを主張しており、電力会社はその動静がメガバンクの環境指針に直接影響を与えることを懸念しています。
*4要件
・石炭をエネルギー源として選択せざるを得ない国に融資対象を限定する
・日本の高効率石炭火力発電に対する要請がある
・相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的である
・原則USC(超々臨界圧)以上の熱効率
環境ファイナンスの性質上、メガバンクの融資方針に国内外の区別は本来、ありません。したがって要件見直しが行われた場合、国内の電力会社に対する融資も直接・間接の影響を受けざるを得ないでしょう。
しかし一方でこの問題はコストの安い中国・米国のメーカーを採用したことをきっかけとする小泉環境大臣のスタンドプレーに過ぎない、との見方もあります。すでに経産省は石炭火力に対するこれら内外の逆風に対抗するための措置を講じています(この点も改めてご説明します)。
いずれにせよ、石炭火力の融資を受けている電力会社は本件をはじめとする諸情勢に翻弄されることを避けられず、これらの問題から目を離せなくなっているのです。