2018年9月6日午前3時8分、北海道胆振地方で最大震度7の地震が発生、北海道電力苫東厚真火力1号(35万kW)、2号(60万kW)、4号(70万kW)の各発電機(合計165万kW)が緊急停止しました。これにより周波数が急激に低下、道内の発電所は発電を停止し、全北海道が停電する空前の事態となりました。
この事象をうけ、1発電所の緊急停止による周波数低下が、全域停電につながってしまう物理的理由が大きな関心事となっています。最近では2011年3月11日の東日本大震災時の東京電力で全域停電を回避、部分停電で済んだ例があり、このような過去の事例と何が違うのか、関心を呼んでいるわけです。
今回の事象は北海道電力にとって避けようのない事態だったと考えられます。
周波数とは1秒間のタービン回転数です(50Hzの場合、タービンは50回転/秒)。供給力はタービンを回転させる力です。需要と供給を均衡させ、タービン回転数を安定させることで一定の周波数を維持します(需要>供給となった場合、タービン回転数は下がり、周波数も低下します)。
発電所停止に伴う供給力減少等により周波数が低下した場合は、保護装置(UFR=Under Frequency Relay)が作動、需要を一部遮断(=停電)することで50Hzを回復します。東日本大震災時の東京電力ではUFR作動により全域停電を回避しました。
UFR作動には一定時間を要します。周波数低下が急激な場合、需要遮断は間に合わず周波数回復は不可能になります。この事態を放置すると、連系されている発電機はタービン軸に不安定なブレが生じ、破損します。そこで発電機を系統から外す(=解列)ことで電源を保護します。
地震発生時の北海道電力の供給力を振り返ってみましょう。道内全体の需要は292万kW(3時00分~3時05分)でした。苫東厚真発電所の出力は165万kWですから、地震により系統の半分以上の供給力が失われたわけです。
周波数はミリ秒単位で低下したはずです。このような低下にUFRの作動は間に合わず、ほぼ同時に他の発電機も解列されたと考えられます(今後、北海道電力が解析、詳細を公表することとなるでしょう)。
北海道電力が全道停電を回避するために何かできたとは考えられません。苫東厚真発電所を直撃する地震が発生したことが不幸だったとしか言いようがないのですが、あえて付言するならば、泊原子力発電所(3機、合計207万kW)が稼働していたならば、全域停電は回避できた可能性があります。
本稿作成時点、全道で315万kWの供給力を回復、流通設備損壊箇所を除いてほぼ復電した模様です。この回復ぶりは考えうる最高の結果です。報道関係者はこのような経緯をどうか報じて欲しいと思います。
推測ですが、計画停電は回避できる可能性が高いと考えます。北海道電力関係者の努力に心より敬意を表します。